クリスマスにベルーガを追うということ(その1)
私は飛行機が好きだ。今更というか、こんな記事を書いている時点でそれはそうという話になる。だが、改めて趣味の話をしたことがなかった事に気づいた*1。
今日はちょっとだけ、突如日本に向けて飛び立ったベルーガを追いかけた話をしたい。修論時期だから本当にちょっとだけ、である。
今回はその時の感情をそのまま書いているため、普段より崩した書き味になっていると思う。
航空ファンが写真を撮りに行かねばならないとき
この前提を説明しないと、ここから先の話が異常者のそれになってしまう。熱意の源を説明しておきたい。
航空ファンのうち、「スポッター」と呼ばれる撮影・記録を趣味とする者は臨時便や珍しい機体を追いかける事が多い*2。
スポッター基準で面白いものは「いかにイレギュラーであるか」となる。一般的に伝わりやすいような例も交えて説明すると、たとえば
- そもそも珍しい機体
- ある空港に普段見かけない飛行機がやってくること
こういったところであろうか。前者はなんとなくお分かりであろう。ただ、後者がマニア的には結構重要であり、同時に一般的には理解されづらいものでもある。
そしてこういった情報をどうやって入手するか、という話になる。
- 航空会社のWebサイト
- 一番easyなケース。目玉となるチャーター便などであれば、プレスリリースや旅行商品に日時が掲載される。
- ただし、こんなeasyなケースは稀である
- 旅行代理店のWebサイトやチラシ
- ここから段々マニアックになってくる。旅行代理店は旅行商品を企画する際、チャーター便を飛ばすことがある。これは地方の空港などでよく見られるもので、「○○からヨーロッパに直行!乗換なしでゆったり旅行!」のような謳い文句が出される。この手のページやパンフレットを見かけたら気にかけておく航空ファンも多い。
- チャーター便は一般に高価だが、百数十名の参加者などがまとまって入るような企画であればペイするのであろう。
- 旅行商品としての都合上、日程は最低でも明らかになる。運がいいと使用するエアラインまで書いてある。
- 謎の情報源
- SNSや雑誌に掲載されている、本当に謎の情報。
- あんまり信じないけど近所だったら行っちゃうやつ
- 前日か当日になってわかるもの
- Flightradar24でわかるタイプ
- 今回のやつはこれ
「前日か当日になってわかるもの」が一番タチ悪いのだが、一方で一番ワクワクするものでもある。
限られた情報から考えられる経路や到着時間は?どこで撮れば(自分の腕と機材の範囲で)一番綺麗に写る*4?どうすれば到着までに間に合う? これらを勘案し、「この時間にここで撮ろう」と決めて撮影スポットに向かう。それが正解であれば、珍しい機材を綺麗に撮ることができる。さながらRPGのクエストである。この趣味においてこんな楽しいことが他にあるだろうか。
だからやめられないんだ、飛行機追っかけるの……
2021年12月23日、夕刻
当日はpart-timeでやっている仕事の出勤日(ただしリモート)だった。ホリデーシーズンに突入したことで海外出身勢は一斉に休暇を取得しており、私の方も暇になっていた。
夕刻にTwitterを開くと、Flightradar24が「Most tracked flights」、つまり世界中でいま多くの人に注目されているフライトに関するツイートをしている。 1位はサンタである。Flightradar24は毎年クリスマス時期になるとサンタクロースを表示する遊びをしており*5、これ自体には何ら驚く要素がない。本当に季節の風物詩であるし、スルーしようとしていた。
Top 3 most tracked flights right now
— Flightradar24 (@flightradar24) December 23, 2021
1. Santa Sleigh to North Pole https://t.co/nvBJVICk2w
2. Airbus Beluga to Kobe https://t.co/BWQjixkIR1
3. Antonov An-225 to Rzeszow https://t.co/YM01qYmJw7 pic.twitter.com/3EGl2wK4mm
だがちょっと待ってほしい。2行目になんか……なんだ……これ……
航空会社コード4Y/BGA、これはAirbus Transport Internationalというエアバス社が自社の航空機製造を目的として物資・パーツを輸送するためのエアラインを意味している。いや意味しているのはわかるんだが理解が追いつかなかった。なんで神戸(UKB)に?何を積載している*6?
なぜなら、エアバス社の国際分業の大半は基本的にEU内で完結しているからである。ドイツで製造した部品をフランスに輸送する、そういった用途のためでしかこのエアラインは運用されない。EU域外へのフライトはきわめて例外的なものであって、かれこれ10年以上Flightradar24をウォッチングしているが、4Yの行き先が日本になったことは見たことがなかったのである。
異形の航空機、ベルーガ
私はAn-124、An-225、B747-400LCFなど、奇妙な形状の大型貨物機が好きである。
Airbus Transport Internationalが運用するのはA300-600ST 「ベルーガ」であり、まさにその1つである。 これが日本に飛来したのは1999年であり、日本で見ることは今後無いだろうと思っていた*7。
また、ベルーガは後継の「ベルーガXL」(A330-743L)への交代が予定されており、あと数年でその姿は見られなくなる。
この機材の行き先が日本に設定された時点で、スケジュールに都合がつくスポッターの行動は1つに決まる。 神戸に飛ぶぞ。
2021年12月23日、夜
幼少期に親に見せてもらったベルーガの模型を思い出した。こんなヘンテコな飛行機があるんだ、ヨーロッパでエアバスという会社がある。若干だが航空業界に(外部から)関わっていた父に、そんなことを教えてもらった。あの模型はいまも実家のどこかに飾ってあるはずだ。
その後、成長とともに無事に航空ファンとなるにつれて*8、その飛行機を(日本で)目にすることは難しいこともわかるようになっていった。
ある意味でベルーガとは「旧知の仲」であった*9私は、神戸に行く以外の選択肢がなかった。修論?現地で書きます。宿にWi-Fiあるだろうし。許して。
Flightradar24では例のフライト――4Y8004便の神戸到着が23時ごろとなっている。神戸空港の運用時間(いわゆる門限)を考えると現実的ではない。 とはいえ何があるかわからないし、行っておくに越したことはないだろう。
とはいえ急なフライトである。予約して羽田まで間に合うのか不明という問題があったため、現地で予約をしようと思った。とりあえず家を出て電車に乗ろう。荷造り……衣類は現地調達でいい。神戸空港なら三宮まで出れば何かあるはずだ。カメラとレンズだけ持参すればよい。 もちろん、修論を現地の宿で書くべく、PCは忘れずに。
ホテルは……あとで航空券を取れたら考えよう。
そうしてHNDに着いた私はその場でNH415便の予約を取り、神戸空港付近で拠点としやすいホテルの予約も取った。 行くぞ神戸、頼むぞANA〜。
今日はここまで。続きはまたこんど。
脚注
*1:自明だし……みたいなノリだったのかもしれない。好きなものについて書くことは楽しいかもしれないと最近思っている。
*2:鉄道ファンが珍しい列車に集う様子などはよく見かけるし、話題にもなる。しかしながら、航空ファンはその人口の少なさ故に何をしているか伝わりづらい気がしている。
*3:たとえば航続距離が短い機材を日本からアメリカに売却する場合など、複数の地点を燃料補給しながら経由していくことになる。
*4:大半の場合は展望デッキが開いているかどうか、という問題になる
*5:NORADに始まると思われるのだが、航空業界はジョークとしてサンタを「追跡」する風習がある。
*6:この辺の種明かしは「その2」で書こう」と思う
*7:An-124などは大型貨物のチャーターで使用されるため、さほど珍しくないのだが、ベルーガはエアバスの航空機製造に関して使用されるdedicatedな機体である
*8:なお、父は軍用機寄り、私は民間機寄りのファンである。