ryo-aの雑記ノート

ryo-aのネタ帳。プログラミング関係の記事はQiitaで。

「はめふら」の文字を解読してフォントを作る話

古代エジプト語と日本語くずし字を少しだけ勉強しているのですが、そのノリで「はめふら」(乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…)のアニメに登場する異世界文字も読めるような気がしてきたので解読に取り組んでみました。要はシャンポリオンごっこです。

今回の解読は独学でウビフ語を学んでいた、サークル後輩のmizuki氏にも手伝ってもらいました。ありがとうございます。

なお、自分は語学や言語学を専門としていないため、本稿の内容に関しては誤りが含まれている可能性が否定できません。もし至らない点があればご指摘いただければ幸いです。

解読結果

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フォント

製作中です。随時修正予定です。

github.com


アニメにおける異世界言語・文字

アニメやゲームなどの創作物における異世界言語は主に2通りに分けられます。1つは英語や日本語などの既存の言語を創作文字に転記したもの、もう1つは文法体系から創作されているものです。

前者では「ノーゲームノーライフ」のイマニティ語が挙げられます。イマニティ語の文字はマリィ(2014)により、ラテン文字アルファベットと1対1の対応関係にあることが解明されています。後者ではアルトネリコシリーズのヒュムノス語が有名です。ヒュムノスは文法や文字に関する情報が公式に公開されています(土屋(2008))。

本作「はめふら」の言語がどちらであるかは設定が不明なため、ひとまず試行が容易な前者であると仮定した上で解読を進めたところ、整合性の取れる解読結果が得られました。

解読編

解読の手順を順を追って説明していきます。文字解読初心者なので、これから文字解読をスタートする方にとっても参考になれば幸いです。

順位表上位3名

まずは第4話に登場するテストの順位表を基に解読を試みます。 本稿執筆時点までに放映されているシーンで唯一、人名と異世界文字が対応付けられるシーンです。

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乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」第4話より引用

なお、登場人物の英語表記は以下の通りです(原作英語版より)。

  • ジオルド・スティアート : Jeord Stuart
  • マリア・キャンベル : Maria Campbell
  • アラン・スティアート : Alan Stuart

カナの文字数とは一致しなさそうなので、英語表記で当てはめてみます。

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英語表記を当てはめた

ほぼ一致しています。ラテン文字アルファベットへの翻字ができそうです。
"CAMPBELL" の文字数が一致しませんが、"LL" の合字(リガチャ)がある、もしくは "LL"と重なる場合に"L"と省略する正書法があると考えれば説明できそうです。
また、JEORD の G と CAMPBELL の E 、JEORD の E と MARIA の Iが同じ文字になっているので疑問が残ります。
ただ、ここで JEORD で J → E , E → I 、つまり EIORD とすると(このあとで示す他の文字の翻字とも)整合が取れます。EIORD という表記は何らかの正書法によって JEORD が変化したものかもしれません。

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一部の文字でラテン文字との対照関係が確定した

これにより、A, B, C, D, E, I, L, M, N, O, P, R, S, T, U に対応する異世界文字が判明しました。イマニティ語(マリィ(2014))では数多くの子音の当てはめ試行が行われましたが、対応するラテン文字が既に一部示されているの本作の解読は比較的容易と言えそうです。

順位表の続き

順位表の左上

続いて、順位表に今回判読できた文字を当てはめてみましょう。

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第4話より引用。文字は書き加えた。

順位表ということで人名が続くかと思いきや、"MIND" "AND" "NOT" のように英単語が羅列されているようです。 推測できそうな単語から手を付けていきます。

  • DIRECTL? → DIRECTLY
    • ?OU→ YOU, ONL? → ONLY, MA? → MAY とも整合。
  • ANOT?ER → ANOTHER
  • LOO?INT(O) → LOOK INTO
  • O?N → OWN
    • K, W は ?NO? → KNOW とも整合。

ここまでで新たにH, K, W, Y と読める文字が判明しました。
また、人名の段階でLLのリガチャの可能性があった文字ですが、他の場所に当てはめると通常の L であることがわかりました。単語末尾に L が重複した場合は省く正書法があるのかもしれません。

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順位表の解読結果

順位表の右上

続いて、右の列にも当てはめてみましょう。

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第4話より引用。ラテン文字は書き加えた。

先程の LOOKINTO のように単語の切れ目が繋がっている部分がありそうなので、適宜推測を交えていく必要があります。

  • RI?HT → RIGHT
    • RECO?NI?EMY → RECOGNI?EMY
      • RECOGNIZE MY とすれば整合。

先程の部分と比べてやや難易度が高いです。 ?ITY に当てはまる単語といえば CITY や PITY が挙げられますが、C や P は既に確定しているので違いそうです。HINGO?TIE も不明です。

現時点では新たにG, Z が判明しました。

順位表の左下

さらに続いて、順位表の左下に当てはめてみましょう。

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第4話より引用。ラテン文字は書き加えた。

  • ?ROWN→ FROWN
    • MY ?ACE → MY FACE, MEANING O? → MEANING OFとも整合。右上の HINGO? TIE も THING OF TIE とすれば整合。

ここまでで F が更に判明しました。

順位表の右下

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第4話より引用。ラテン文字は書き加えた。

  • ?OICE → VOICE
    • 右上 ?ITY は ACTIVITY とすれば整合。

これより、 V が判明しました。

現時点で J, Q, X を除く文字が判明しました。なお、数字は順番どおり並んでいるのでそのまま読めます。

作中の本からの解読

ここまで読んで残り3文字に困っていたところ、mizuki氏が「本の文章に X がある」との情報を提供してくれました。

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ということで4話の本をめくるシーンを見てみましょう。以下はmizuki氏による解読結果です。

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第4話より引用

the castle where fell and hit by
head against the stone  revived the
memory of the previous life that was
an otaku girl who lost her life in an
accident nd what remembered was
the maiden game
that this world was playing until
the day of tie accident and
realized that  was a heroine rival
character  he future of atalina was
only a ruined route of deportation
or death  atalina who wants to have
a gentle retirement tries to avoid
tie end of ruin
times and now it is used as a raw
material for biofuel which will be
desccultural crops include natural
resins in addition medicinal
plants have been cultivated
extensively in the orient and he
has been used as a raw material for

最後から2行目、EXTENSIVELY があります。これでXが判明しました。

残り2文字 (J, Q)

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第3話より引用し、反転

EMRAOUIYO
K??W
PLMNBVDA

この ?? の2文字はいずれも他の文字には該当しません。これらがJ, Qだと思われますが、どっちがQ(J)なのかは今後のストーリーで J と Q を含む単語が登場するのを待つ必要がありそうです。

ちなみに、英語における文字の出現頻度(letter frequency)として下位に位置するのは J, X, Q, Z なので(Moreno(2005))、mizuki 氏曰く X および Z が判明しているのは奇跡とのことです。

文字に関する考察

英語以外の言語も用いられている

順位表の単語や書籍中の文章は英語や英単語の列挙でした。しかし、書籍の表紙や魔法学園内の表示には、ランダムな文字の羅列に見えるものがあります。
これが「はめふら」世界固有の言語なのか、単にランダムに打ち込まれた文字なのかは不明です。

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第4話より。翻字すると ACGSDA となる。

大文字と小文字

「はめふら」世界の文字は大文字・小文字の区別がないようです。現実世界では、ゲエズ文字グラゴール文字などでも大文字・小文字の区別がありません。

ただし、第6話に登場する看板のように先頭の文字を大文字にしている場合も見られます。 これが単にデザイン上のものなのか、スモールキャピタルとして書けるものなのかはわかりません。

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第6話より引用

約物

書籍・ノートなどの長文を見ても約物らしき記号は登場しません。偶然なのかもしれませんが、約物を持たない文字を使っている可能性があります。 また、punctuation markと推定される記号も使われていません。文の終了は意味で判断する可能性がありそうです。現実世界でいうところの、漢文の白文と似たような感じかもしれません。

反転して記述できる可能性

「はめふら」世界では順位表や黒板、書籍中のように、英語や日本語と同じく Left-to-Right の順で記述されることが一般的なのだと思われます。 一方、J, Qの推測で先程示した第3話では、書籍の表紙と思われる部分が左右反転して描かれています。これより、 Left-to-Right/Right-to-Leftのいずれでも記述できる可能性が考えられます。

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第3話より引用(反転なし)

実際に、古代エジプト語のヒエログリフは左右どちらからでも描くことが可能です。ヒエログリフでは生物の頭が向いている方向から読み始め、記述方向によって字形が反転します。
たとえば、以下の文字列はどちらも「ウアブ神官の息子」を意味します。

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「ウアブ神官の息子」のヒエログリフ表記。吉成(1988)を基に筆者作成。

筆記体・ブロック体の違いは存在しないと推定される

手書きノートや黒板の文字、印刷された文字、すべてにおいて字形が同じものであることから、ヨーロッパ系言語にみられる筆記体・ブロック体の違いは存在しないと思われます。

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第6話より引用。カタリナのノートも「筆記体」ではないようである。

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キリル文字筆記体の例。Tなどで大きく形状が変わる。Wutzofant氏作成(Wikimedia Commonsより)

参考文献


フォント作成

では、解読した文字をベースにフォントを作成していきます。 フォントについてはかなり我流の作成方法なので、あまり褒められたものではない事にはご留意ください。

「はめふら」世界のフォントの考察

解読プロセスで文字自体の特性については触れましたが、ここではフォント(書体)について考察していきます。

順位表を見る限り、アラビア文字でいうナスタアリーク体のような、文字の太さが変わる流線型の雰囲気を持つ書体が正式な場面で用いられるように推測されます。 ただ、手書き文字や板書では太さが一定で、アラビア文字でいうナスフ体のような文字を書くこともあるようです。そのため、文字の太さが変わることはマストではなく、あくまで書体デザインの要素ということでしょう。

また、書体によっては合字があるようです。以下のシーンでは MAGICAL EARL の AL と RL に流麗な合字が見られます。
これが書体レベルのデザインなのか、フランス語のœのように文字体系レベルで定められた合字なのかは分かりません。

ひとまず、シンプルな合字なしのフォントを作ってみようと思います。

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第6話より引用。Magical Earl と書かれている。

フォント作成ツール「Glyphs」

glyphsapp.com

Glyphsはドイツ製のフォント作成ツールです。フォント作成ツールにしては比較的安価ですが、プロのフォントデザイナーさんも使用しているほど完成度の高いツールです。Mac専用ですが、フォント作成をする場合は買っておいて損はないと思います。

イラレでパスを作成

Adobe Illustratorでパスを作成します(フォント作成に手慣れている方はGlyphs上で全てを完結させるようです)。

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Adobe Illustratorでのパス作成の様子

作中の印字などで使われている、幅が途中で変わるグリフを作るには線幅ツールを活用します。 f:id:ryo-a:20200519175740p:plain

ただ、今回は作中の手書き文字をモチーフとした文字(幅が途中で変わらないもの)から作成します。 f:id:ryo-a:20200519175914p:plain

Glyphsに読み込んで調整する

パスをアウトライン化してGlyphsに読み込みます。 イラレ→Glyphsにコピペで読み込むとき、アタリをつけるためにイラレ上で矩形か何かでグリフを囲んでおくと配置が楽になります。

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まずはスペーシング(文字の両幅のアキ)を調整します。20くらいでいいでしょう。 他にもカーニングを調整する必要がありますので、こちらも追って書きます。

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スペーシングの調整

OTFで書き出す

Glyphs2からOTF形式で書き出します。

https://github.com/ryo-a/hamefura-font